私の視線を掠めたのは星屑のような淡い銀と月光で照らされた闇夜のような蒼。「初めて見
る顔だな」「ぁ…っ領主、さま」「そう萎縮しないでほしい。私と君は見る限り年が近いのだから、
もっとラクにするといい」あなたの闇夜に呑まれそうなの。言葉にならない想いがぐるぐる駆け
巡る。「君の名は?」「 、です」「そうか。 …。いい名だ」鳥のさえずりのように優しい微笑
みを浮かべ私の名を呼んだあなた。ああなんて幸せなのでしょう。あなたのその甘美な声で
私の名をよんでくださるなんて!!私の口元は知らぬ間に、弧を描いていた。
「君は、私を覚えていないのか?!」「ご、ごめんなさいっ…!何でもします!何でもしますか
ら!」ぶたないでと言葉が続くかのように目の前の少女は腕を頭上に持ち上げた。本当に、ほ
んとうに彼女は私と出会う前に戻ってしまったのか。「…すまない。そんな顔をさせるつもりじゃ
なかったんだ」「ご、主人、さま?」手を頭へ伸ばすと再度彼女は怯えたが、そっと触れて撫で
てやるとすぐに警戒を解いた。その瞳には困惑と嬉しさの色がやどっていた。「私の名はライ。
ライリアだ」「ライリア、さま」「ライでいいし様もいらない。私たちは、友達だろう」「とも、だち…!
」単語に反応してきらきらと目を輝かせた彼女は躊躇いがちに私の名をよんだ。ライ、とただひ
とこと。ぐらりと昔に戻ったかのような感覚に襲われ、私はすぐに意識を立て直した。「君の名は
?」「 、です」出会ったときと全く同じ言葉で、君はこたえた。ああ愛しい娘、今度こそ手放さな
いようにしっかりと手を握って、抱きしめた。
「 ? ?教会にもいないのか? ?」「ラ、ィ」「!! !なぜシスターが…?」ああ会いた
かった愛しい人。貴方の顔を見ただけで私の涙は止まらなくなる。助けて、助けて、独りは嫌な
の。貴方とともに生きられないのは嫌なの。貴方と共に死ねないのは嫌なの。助けて。助けて。
どうして、私は騙されたの?ねえどうして?どうしてあなたは私よりも先に死んでしまうの?どう
して私は貴方よりも生きなくてはいけないの?ねぇ、ねぇ…!「あああああ!ラ、イ、ライ、ライラ
イライライライライいいいいい!」「 !」「っ」暖かい。とても暖かいのね、貴方は。私を独りに
しないで。おねがい、私をおいて逝かないで。どうか、私を愛して。私はもう貴方に愛される術を
持っていないの。私の体に回された彼の腕にこたえるように、彼の首にそっと腕を回した。
昔と今がぐちゃぐちゃにまざって
最後に残るのはなんだろうね
(それがどうか、未来でありますように)
目の前の少女はぽろぽろと涙を流していた。「…私はもう、君をおいては逝かない」「?」「約束は
守るさ」「約束、ですか?」わけがわからないと彼女は首をかしげた。「ああ。遠い昔に交わした、
大切な約束だよ」笑ってみせると落ち着いたようで涙は止まっていた。長い間独りにさせてしまっ
てすまない。もう独りにはしないから。私がずっとそばにいよう。彼女の体に回した腕を少しばかり
きつくして、額にキスをした。
涙が溢れて止まらない。それは胸にできた傷が痛いのか、それとも不老不死になってしまったこ
とが悲しいのか、はたまた両方なのかは分からない。「ねぇライ。約束をしましょう」「約束?」「た
った一つでいいの。私をおいて逝かないで。ただそれだけ」われながらなんて無理なことを言った
のだろうか。彼は、老いて時の流れに消えていく者なのに。「わかった」「え…?」返答におどろい
た。そんなにもあっさりと、答えを出していいの?「私は君をおいて逝かない。たとえ、何があって
もだ」ああなんて優しい嘘なの。彼に回した腕をきつくすると、額にキスが降りてきた。
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